白黒ツートーンで、尾の長い鳥

前回まで紹介した鳥たちは、体がある程度の大きさだったり、色が派手だったりして、双眼鏡で対象を捉える練習には適した野鳥たちでしたが、今回はこれまでの経験を基礎にして小型の鳥を双眼鏡で見ることに挑戦してみましょう。
その練習に適した鳥がハクセキレイです。




ハクセキレイは全長21cmほどの大きさの鳥です。


白黒が基調のシックな色合いで尾が長く、その尾を頻繁に上下に振ります。撮影時にシャッタースピードを遅くすると、掲載画像のように尾の部分がブレてしまうこともしばしばです。



ハクセキレイの飛び方は特徴的で波形を描いて飛びます。




また、翼を広げたときに全体が白く見え、それは肉眼でも十分確認できます。飛んでいる姿を双眼鏡に入れるのが難しい場合は、肉眼で翼の白に注目しましょう。


“水際”が好きなハクセキレイ

ハクセキレイは水辺が好きな鳥です。今まで紹介したカワセミ、コサギ、カルガモ、カワウがいる水辺にもいますので、これらの鳥を見た場所に改めて出かければ見つけることができるでしょう。ハクセキレイが利用している環境は川や池、沼の“水際”です。


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双眼鏡を岸に沿って動かして確認してください。白と黒の模様の鳥が尾羽を降りながら歩いている姿を見つかると思います。単独でいるのがほとんどですが、大きな河原などでは冬の間は複数羽が同時に見られることもあります。


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カワセミは岸辺の枝に止まり、コサギは浅い水の中を歩き、カルガモは水面を泳いでいて、カワウは潜って魚を捕えています。一口に「河川環境」といっても様々な環境があり、その環境を種類ごとに使い分けています(※注1)。鳥たちはうまく共存していますね。

ハクセキレイは、自然度が決して高くない人工的な小さな河川にもよくやってきます。水質が悪くても平気のようで、川沿いの歩道を数分歩くだけで10羽以上に出会うこともあります。写真のような川がご自宅の近くにあれば、ぜひハクセキレイを探してみてください。

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その場合でも、探すポイントは“水際”です。ハクセキレイのようによく動く鳥を探すコツは、目を動かさず景色を眺めるようにして、視野内に動くものがいたらそこを見ること。それでセキレイ類の姿を見つけられる頻度は増えます。川の堰堤下に水たまりのような場所があれば、そこもポイントです。


田んぼや畑にもいるハクセキレイ


ハクセキレイは水辺に隣接した田んぼや畑などにもやってきます。水の溜まっている田んぼや畑があれば、双眼鏡を向けてみましょう。


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地上をノコノコと歩いている姿に出会えます。






芝生の上も好きで、グラウンドや公園などが適地です。以前紹介したムクドリのいる場所に再度行ってみましょう。小さい白黒の鳥が地面を歩いていれば、ハクセキレイの可能性が高いでしょう。


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行動を見てみよう


水際や芝生の上を歩いているハクセキレイを見ていると、時々水面や草の中をつついています。


これは、ピンセットの先のような細い嘴で虫などを捕えているのです。具体的にどんな虫を食べているかはわからないことがほとんどですが、幸運にもコオロギの仲間のような虫を食べているシーンを見かけたので、その写真を紹介します。



また、ハクセキレイは水浴びをする行動を観察しやすい鳥です。


水浴びは羽毛をきれいに保つための行動ですが、羽が濡れて飛びにくくなることや乾かしている時間に敵から狙われやすいので、小鳥は水浴びやその後の手入れを藪の中で行うことを好み、観察しにくいことがほとんどです。

その点、ハクセキレイは見通しの良い河原にいるため、驚かせなければ水浴びと水浴び後の羽毛の手入れをゆっくり観察できます。水浴び後には嘴で羽毛を整えています。

この丁寧な作業を見ると、いかに羽毛が鳥にとって大切なものかを分かります。この手入れの合間に翼を広げて伸びをしますが、このときは翼の模様などをしっかり確認する絶好の機会です。




分布を広げるハクセキレイ


ハクセキレイは、第二次大戦後以降に大きく生態を変えてきた鳥の一つです。1960年代までは日本国内では北日本の河川や海岸沿いで繁殖していましたが、1980年以降になると関東地域まで繁殖域を拡大し、1990年ごろには日本のほぼ全域で繁殖するようになりました。現在では都市部でも子育てをしています。

分布拡大とともに食性も変化しています。昆虫食のハクセキレイが公園などで人がハトに与えているパンやポップコーンなど植物質のものを食べる姿が確認されているのです。 
ハクセキレイの分布拡大は、人間との関係を変化させていった歴史とも言えるでしょう。


駐車場でバードウォッチング!?


最近私が注目しているハクセキレイの変化は、駐車場によくやってきていることです。餌がまったくなさそうな個人の駐車場や公園の駐車場でも見かけます。

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しかし、一番見かける機会が多いのはコンビニエンス・ストアの駐車場です。

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気にして追い払う人もいないせいか、ずいぶん人になれているケースもあります。

私の経験では、ハクセキレイがよく利用している駐車場の条件は、広めの駐車スペースを確保しており、人の利用が多いことです。人間がいることでカラスやタカなどの外敵が近寄ってこないことを利用し、食事をした人の残り屑などを探しているために広い駐車場だとその機会が増えるためと考えられます。
その理由を示唆するものに、人の出入りが多い場所を好み、食事をした人が去った場所を歩いて地面をつつく行動を見かけます。

コンビニの駐車場がハクセキレイ観察スポットにもなるなんて、私が鳥を見始めた30年前までは考えられなかったことです。


人を怖がらなくなったハクセキレイ


コンビニの駐車場で人に危害を加えられないことを学んだハクセキレイは、住宅街にもやってくるようになっています。

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歩道の真ん中、


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車がすぐ横を通るような場所、


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駅前などで人がすぐそばを歩いていても平気で歩いています。




ハクセキレイのバリエーションにも注目


ハクセキレイを数多く観察できたら、顔が黄色っぽい個体を探してみましょう。これは若い鳥で、体全体の灰色の部分が広いことも特徴です。


飛びながら追いかけっこをしているハクセキレイをよく観察すると、顔の白い大人の個体が顔の黄色い若い個体を追っていることが多いです。やはり若い個体の方が弱いようです。

また、春になると背中の灰色が真っ黒で白と黒のメリハリがはっきりしているハクセキレイに会います。これは夏羽です。


バードウォッチングをすることで、鳥たちの羽の色の違いや変化で、鳥たちの事情や季節の移ろいを感じられて、日々の生活が豊かな気持ちになれるのがいいですね。

水辺で簡単に見ることができ、ちょっと出かけたコンビニや駅前にもいるハクセキレイ。いつもお散歩コースにこのような場所があれば、ぜひ探してみてください。



撮影地
神奈川県(綾瀬市、海老名市、座間市、平塚市、茅ヶ崎市、小田原市)、埼玉県(入間市)、千葉県(香取市)、新潟県(佐渡市)

注:1つの種が利用する、あるまとまった範囲の環境要因のことを、生物学用語でニッチ(生態的地位)といいます。種類ごとに利用する環境を変えることで、食物の競争を避けているといわれています。

適した光学機器
ハクセキレイは警戒心も薄いので、8倍の双眼鏡で十分です。首への負担を少なくして、気軽に出かけるためにも、軽めのものを持って行くほうがよろしいと思います。

エンデバーED 8420売価34,800
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スピリットED 8360売価27,800


派手な雄、地味な雌

今まで地味な鳥をずっと紹介してきましたので、今回は派手な鳥を取り上げます。オシドリです。


オシドリは、以前紹介したカルガモと同じカモの仲間です。茶色のカルガモとは異なり、「これが本当に野生の鳥なの?」と疑問に思えてくるような全身が多彩な色をしています。



日本の鳥は渋い色合いのものが多いのですが、野鳥画家としては、オシドリはたくさんの色を使って描くことのできる“楽しい種類”です。  しかし、たくさんの色を使えるのは雄だけ。雌は地味な色彩で



雰囲気はカルガモと似ています。オシドリの雌とカルガモの見分けは、以下の点に注目するとよいでしょう。

1. 嘴の先端は黄色くない
2. 目の周りが白く、その白が目の後ろへ伸びている
3. 脇腹に淡褐色の水玉状の斑点がたくさんある

以上の点に注目して、オシドリの雌を探してみてください。 もし「それはちょっと難しそうだな」と思ったら、まずは派手な雄を探し、その隣にぴったり寄り添っている地味なカモに注目してください。





ほとんどの場合、それがオシドリの雌です。


カモなのに、森の鳥!?


オシドリを見つけるには、岸が森で覆われている池や沼、川などを探すことから始めてください。


その森の地面にドングリが落ちていれば、よりその可能性は高まります。


実はオシドリはドングリが大好物。
カモがリスやネズミと同様にドングリを食べるというのは不思議な感じがしますが、シイやカシ、コナラなどのドングリがなる森の中にある水辺では、実際にオシドリをたくさん見つけることができます。


オシドリは陸を歩きながらドングリを探して食べるので、水の上にいるほかのカモと比べると天敵にも襲われやすくなります。
そのため、派手な姿に似合わず、とても警戒心が強い鳥。特にテンやイタチ、キツネなど肉食獣などがいる山間のダム湖などのオシドリは人影を見るとすぐに飛び立ってしまいます。

カルガモは人にも慣れていて、極端に言えば“水さえあればどこでも住んでいるような鳥”ですが、オシドリは「住環境にこだわりがあって人見知りをする」、そんな鳥です。同じカモの仲間でも、種類によって習性が全然違う良い例です。


オシドリに会いに行こう!

オシドリの好きな環境はわかっても、「警戒心が強いなら、自分で見つけるのは難しそう」と思われたかもしれません。でも、心配ご無用です。意外とそばにいるのがオシドリです。 

お正月、初詣で出かけた大きな神社や休日に出かけた日本庭園などに、森に囲まれた池などがあれば、そのような場所にオシドリがやってきています。郊外にお住まいの方ならば、里山環境にある溜め池でもかまいません。場所によっては、古墳や城址にある堀も条件に合う場所があります。
そのような場所をいくつか行ってみてください。岸辺近くの木の枝などが覆い被さっている水面付近が注目ポイントです。


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枝越しなどになることも多いですが、群れで泳いでいたり、岸に上がって休む姿が見つかると思います。



真冬の恋の物語

オシドリにとって冬は恋の季節です。寒いのを少し我慢して、オシドリの行動をしばらく観察してみましょう。

雄と雌が寄り添っているのは、もうペアになっている2羽です。雄が嘴で雌にやさしく羽づくろいをするなど、かなりの熱愛ぶりです。


その一方で、ペアになっていない「あぶれ雄」というのがいます。このあぶれ雄をしばらく観察していると、雌を獲得するための行動をしているのがわかります。求愛ディスプレイです。以下の連続写真をご覧下さい。









嘴を水にちょんとつけ、その後に羽の後ろに頭を隠すような動きで、これは一見すると羽の手入れをしているようですが、これはオシドリの雄の求愛行動で「みせかけ羽づくろい」という名称もついています。

さりげない行動で雌にアピールするオシドリの雄。つぶらな瞳で雌の行く先を必死に追ってディスプレイします。

あぶれ雄には、略奪愛を試みるものもいます。ペアになっている2羽に近づき、様子をうかがっています。


しつこいとペアの雄が追い払い、水しぶきをあげての激しい喧嘩になることもしばしばです。


装いも派手で自由奔放に生きているように見えるオシドリの雄ですが、実は厳しい野生の世界で頑張って生きています。ぜひこの冬に、彼らに会いに出かけてみてください。



撮影地:埼玉県(飯能市、狭山市)、東京都(渋谷区 明治神宮)



適した光学機器
オシドリは警戒心が強いものの、色彩も派手で見つけやすいので、望遠鏡を使わずとも双眼鏡で十分楽しめます。行動を観察するときには、ずっと双眼鏡を持ち続けるので、比較的軽い双眼鏡がお勧めです。 
今回は、スピリット XFシリーズがエンデバーシリーズよりも軽いので、お勧めです。

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スピリットXF 8420売価30,000



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