軽快に飛び回る白い鳥
今回はキンクロハジロのやってくる同じような環境で観察できるカモメの仲間を紹介したいと思います。キンクロハジロ同様、冬に日本へやってくるユリカモメです。
全長が40cmほどで、大きさはキジバトより少し大きいくらいですが、翼が長いために飛んでいるときはキジバトよりもずいぶん大きく感じます。声はお世辞にも良いとはいえず、「ギューイ、ギューイ」とやや濁っています。
首都圏近郊の方ならば、新交通システム『ゆりかもめ』の名前で聞き覚えがあると思います。ユリカモメが東京都の鳥(注1)に指定されているので、鉄道名にも採用されたのでしょう。
また、皆さんの中には“カモメ”と聞くと、演歌に歌われるような荒々しい海岸や港などの海辺が生息環境と想像される方が多いと思います。もちろん、ユリカモメはそのような海辺にもやってきますが、川などに沿って内陸の大きな湖沼にも飛来します。特に公園の池などでは人を怖がらない場合もあるので、ビギナーにとって観察しやすいカモメです。
ユリカモメは、飛んでいる姿を見ると全身がほぼ白に見えます。
近くで観察できる機会があれば、まず嘴と足の赤い色を、その次に余裕があれば背中が白ではなく灰色であることも確認しましょう。
お行儀よく…?
ユリカモメは群れを作ることが多いカモメです。ブイや手すりの上でたくさん集まっている姿を見ることができます。
このとき、不思議と鳥の止まっている向きはだいたい同じです。
皆、行儀がいいのかというとそうではなくて、実はこれは風の向きによるものです。人間は風に対して背中を向けて顔に風が当たらないようにしますが、鳥はその逆で、風上に頭を向けています。羽毛が頭側から尾羽の向きに生えているので、頭を風下に向けると羽がめくれ上がって風の抵抗を受けて身体のバランスを取りにくくなることがその理由のようです(ユリカモメに限らず、鳥全般に風上に頭を向けます)。
“いろいろなユリカモメ”に注目してみよう
ユリカモメの群れを見つけたら、それぞれが何をしているかをしばらく観察してみましょう。頭を背中の羽に入れて寝ているものもいれば、伸びをしているものもいるでしょう。
水浴びをしているものにも会えると思います。
また、群れの中に、ユリカモメだけれど茶色が入っている羽の個体を見つけることもできるでしょう。
これは、ユリカモメの幼鳥です。嘴や足の色も真っ赤ではなく、ちょっと黄色みがかっていることも幼鳥の特徴です。
時々、写真のように傷ついた個体を見つけることもあります。
痛々しい光景ですが、無理に捕まえようとするのは危険を伴いますし、追いかけることがかえって鳥にストレスになることもありますので、控えましょう(注2)。“野生の掟”をしっかり見つめることも、時折バードウォッチャーには求められることがあります。
足環標識個体を探してみよう
一羽ずつ鳥を見ていくと、画像のような足に何かついているものが見つけることもあります。
これは公益財団法人 山階鳥類研究所が野鳥の生態研究を目的に取り付けるもので、足が見やすいユリカモメには “カラーリング”という、遠くからでも番号が見える大形のものがつけられることがあります。(詳細についてはこちらをご覧ください)
不自然なものをつけている鳥には申し訳ないと私は思いつつも仲間たちの保護にもつながるので、足環をつけている鳥に会うと、「ガマンしてくれてありがとう」と伝えています。
私は足環を付けた鳥を見つけると番号をできる限り記録して報告し、彼らの生態解明に協力しています。写真の個体は2013年3月に東京都内で観察した個体で、研究者の方からご報告をいただきました。2011年2月に都内で標識された個体で、羽の生え変わりから考えて4歳以上ということがわかりました。皆、同じに見える鳥を個体識別することで、どのような生活をしているのかが分かってくるのは、とても興味深いことです。
人に寄ってくるユリカモメ
ユリカモメに会える水辺では、鳥のほうから人に近寄ってくることがあります。
そこでは人が餌をあげている可能性が高いです。その人が餌をあげていなくても、人から離れずにいるような個体がいれば、いずれどこかで近くで餌を与えている光景が見られると思います。
もともとは、漁港や海岸などで漁師さんたちのおこぼれを食べるユリカモメがいて、そこで人に慣れたのでしょう。
その習性をもった個体が公園などに現れて、カモやアヒルなどに餌を与える人へ近づいていったものと思われます。
人と鳥が近くにいる光景は、よく微笑ましい鳥との交流と捉える方も多く、公園などで毎日餌を与えに来る方がいますが、これは野鳥の生態や自然環境への影響を考えると、好ましいことではありません。餌やりが原因で、多くの鳥が集まると、それとともに糞や食べ残しの餌が沈殿して水底に溜まり、春以降に気温が高くなると水底に溜まった餌や糞がヘドロ化して悪臭を放つのです。
鳥が人のそばでも“鳥らしく暮らすための良い関係”とは何か。自然に仕組みに負担をかけない視野の広い“かっこいいバードウォッチャー”を目指してみてはいかがでしょうか。
黒頭巾をかぶって北国へ
春になると、ユリカモメたちは北国に帰る準備を始めます。冬の間は白かった頭部が少しずつ黒い斑点がでてきて、最終的には真っ黒になります。
ちょうど黒い頭巾をかぶったような配色です。
北へ向かう途中は水を張った田んぼに降りて餌を探す姿を見ることもあります。
この光景を見ると、もうすぐユリカモメとの別れを覚悟しなくてはいけません。でも、それは夏に日本にやってくる鳥との再会が近づきつつある証拠。バードウォッチングにお休みはありません。
撮影地:
撮影地:石川県(金沢市)、千葉県(木更津市)、東京都(台東区)
お勧め機種:
ユリカモメは白くて目立つ鳥なので、見つけることはそれほど難しくないでしょう。飛び回ることも多いため、双眼鏡を主な観察道具にするとよいでしょう。気軽に行かれる公園などであれば小型の双眼鏡でも十分です。
川幅の広い場所などでは明るくて色の再現力のよいエンデバーシリーズで、長時間見ても疲れにくい傾斜型の望遠鏡があると、より楽しめるでしょう。
<双眼鏡>
・オーロス(Orros)シリーズ
・スピリットEDシリーズ
・エンデバーEDシリーズ
注1 :
昭和38年3月改正の「鳥獣保護及猟銃ニ関スル法律」により、愛鳥思想・自然保護思想の普及のため、各都道府県で都道府県の「鳥」などを定めたもの。東京都はユリカモメを指定した。
注2: どうしても保護が必要だと思った場合は、行政機関に連絡をして対応をお願いしてみましょう。