大きな嘴が特徴


今回紹介するハシビロガモは全長43-56cm、カルガモくらいの大きさのカモです。




日本には冬に渡ってくる鳥で、北海道から沖縄まで広く飛来します。
これまで紹介したほかのカモに比べると大きな嘴をしているのが特徴です。
羽づくろいで頭を傾けたときには、特にこの大きな嘴を実感することでしょう。




上嘴の先が大きく平たくなっているため、「嘴(はし)が広(ひろ)いカモ」という意味でこの名前になっています。


この鳥の英名はShoveler(ショベラー)で、土を掘る道具の「シャベル」が基となっています。日本では図鑑などで“しゃもじのような形”と表現されることが多いですが、この英語圏の人は嘴の形をシャベルに見立てたというわけです。


雄は虹彩がキンクロハジロのような黄色で頭の濃緑色がとても美しいです。



雌は雄をそのまま茶色にしたような色合いですが、嘴は雄と同様に平べったいので、それを手がかりに見分けるのがよいでしょう。



バードウォッチングを始めて間もない方で鳥の識別に自信がないという方は、まずは雄を見つけることに専念し、そのそばに嘴の大きな茶色い雌を探すとよいでしょう。



キャラクター化しやすい色


私がカモの仲間で、キャラクターにしやすい種類は何かと問われれば、ハシビロガモを上位に挙げるでしょう。
大きな嘴にかわいい眼。色が部分的にはっきり分かれているのも個性的です。
脚のオレンジも見栄えが良いし、とてもキュートです。
正面からの姿は、ハシビロガモのかわいらしさを象徴しているように思います。



しかし、知名度がいまいちなのか、ハシビロガモがキャラクターに選ばれているのは見たことがありません。会社や行政の企画部の皆さんに、ぜひぜひ知ってほしいカモの一つです。




プランクトンを漉しとる嘴


カモやユリカモメが餌付けされているような場所では、ハシビロガモの嘴を近くで観察できる機会があります。
ぜひ上の嘴と下の嘴の境目部分に注目してください。上下の嘴に細かい櫛状の突起物がついています。



これは、食べ物である水中のプランクトンを漉しとるためにあります。
ハシビロガモが水面を嘴でバシャバシャしながら泳ぐシーンを見れば、この嘴が効率のよいものであることがおわかり頂けるでしょう。



光の条件が良いときは、水面すれすれを嘴の境からプランクトンを漉しとった後の水がどんどん流れ出る様子を観察できることもあります。






きれいな水は苦手!?!?!?


プランクトンを食べ物とするハシビロガモが好む環境は、あまり水が透明ではなく、水が淀んで濁っているような場所で、それは人間の水質の基準では、あまり水質が良くないとされる、ちょっと臭いのする川や池、沼などです。
水の出入りが少なく、移動も少ないお堀なども、ハシビロガモにとっては魅力のある水辺です。




でもここで誤解してはいけないことがあります。人間の行なう検査で“汚れた水”というのは、水の中にある酸素の量などを数値化したもので、人間の捨てたゴミがたくさんあってもいいということではありません。
一度、缶が流れてくる様子をじっと見つめるハシビロガモに会ったことがありますが、とても迷惑そうに見ていたことが印象的でした。






カモ先案内人?


この写真の中には、ハシビロガモと一緒にこれまで紹介してきたコガモやカルガモが写っているのですが、どこにいるかおわかりですか?

クリックすると正解が表示されます




ハシビロガモの雄は色のメリハリがしっかりしているので、発見しやすい種類です。カモは種類が違っても群れを作る鳥ですので、ハシビロガモが泳いでいる姿を双眼鏡で追っていて、コガモやカルガモに気がつくことも私はしばしばです。
もしハシビロガモガいたら、しばらく姿を追ってみると観察できるカモの種類を増やせる場合があります。




緑色の頭をしているマガモとの見分け


ハシビロガモの雄と同じように頭が緑色のカモに、マガモの雄がいます。




起きているときは嘴が黄色で見分けは簡単ですが、嘴を背中に入れて寝てしまっているときは、迷ってしまうという初心者の方に会ったことがあります。
陸上にいるときは特にそう思うようで、マガモもハシビロガモも足の色が同じオレンジですので、見分けに自信がなくなるとのことでした。


そのようなときは、ぜひ胸の色を見てください。ハシビロガモは白く、マガモは褐色をしています。





私もそうなのですが、観察時にはついつい顔の周囲を見てしまい、ほかの部分の色合いに気がついていないことがあります。
カモの仲間は全身がしっかり見える条件で観察できることも多いので、一部分だけしか見えないときにも見分けができるように、例えば10秒しっかり観察した後に目を閉じて、どのくらい体の部分の色を思い出せるかなどに、挑戦してみましょう。
そうしていくと、鳥を見分ける力がどんどんついていくことでしょう。




図鑑に“世界であなただけのカモページ”を!


この連載でのカモ類の紹介は今回で最後になりますが、日本にはまだほかにもたくさんの種類がいます。

これまでのカモの連載を参考に、出会った種類それぞれのカモが好む環境や行動などを図鑑にはない表記でメモをしてみてはいかがでしょうか?
図鑑というものは、日本全国どこでも使えるようにするために、細かい部分に触れていないことも多いものです。
皆さんの出会った鳥たちが与えてくれた行動や生態をきちんと記憶することも兼ねて書き込んでいけば、世界に一つしかない“あなただけのカモ図鑑ページ”ができるはずです。

時間が経ってから見返すと、当時の思い出もしっかり甦りますので、おすすめです。




撮影地:
神奈川県(海老名市、座間市)、埼玉県(狭山市、所沢市)、東京都(台東区、千代田区)


お勧め機種
ハシビロガモは場所によっては非常に人に慣れているので、気軽に持ち運べる双眼鏡でも十分楽しめますが、櫛状の突起物を観たい場合には明るいレンズのものが強い味方になるでしょう。
遠い場所で休む群れを観察したいときは望遠鏡も便利ですが、水辺の明るい環境ですので60-65口径のものでも十分でしょう。
冬の水辺は風の強い日もあるので、三脚はある程度の重量があるものを選ぶと、風による振動を抑えてくれる効果を期待できるでしょう。

<双眼鏡>
エンデバーED II シリーズ
エンデバーEDシリーズ

エンデバーHD 65S(直視型)
エンデバーXF 60S(直視型)




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