秋は、カラスを見るには一番の季節
秋の気配が日々色濃くなる頃、ゆっくり観察してほしい鳥がいます。カラスです。
カラスは一年中日本中の身近な環境に生息していますので、観察するのに適しているのは秋だというと首を傾げる方もいます。
しかし、春から夏にかけては子育ての時期で観察のために近づくと威嚇されることも多く、お勧めはできません。秋は繁殖期も終わり、実りの季節で餌が豊富なおかげで、カラスたちの行動が比較的穏やかになっているように私は感じています。
身近な黒いカラスは2種類いる!
私がバードウォッチングを始めて間もない頃、とても識別に悩んだ鳥の一つがカラスです。
真っ黒で見たらすぐに分かるはずのカラスのどこに悩むの?と思われるかもしれません。しかし、その“黒いカラス”で一年中身近にいるものには2種類いると知ったら、どうでしょう? 見た目は真っ黒でほぼ同じですから、見分けのポイントをしっかり観察しなければなりません。
見分けのポイントは、嘴と額です。嘴が細くて額が滑らかになっているのがハシボソガラス(以下、ボソ)で、嘴が太くて額が出っ張っているのがハシブトガラス(以下、ブト)です。
しかし、ブトの中にも額のでっぱりが小さいものや嘴が細めのものもいます。『自然の世界は、常に例外がある』という大事なことをカラスは教えてくれます。
鳴くときの行動と声の違いにも注目
よく見かける黒いカラスの識別に、ほかにも役立つポイントがあります。まず始めは、鳴き方です。ブトは鳴くときに、体をちょっと伸ばした状態で声を出すと同時に尾羽が少し上下に動きます。それに対し、ボソはお腹の羽毛を少し逆立てて頭を上下させます。
また、声も識別には有効です。いわゆる澄んだ声で「カー、カー」と鳴くのはブトで、「ガー、ガー」と濁った声で鳴くのはボソです。しかし、ここにもまた『例外』があり、ブトはネコや猛禽類などの天敵がそばにいるときの威嚇の声が「ガー、ガー」と濁る場合があります。
権兵衛さんの蒔いた種をほじくったカラスは?
民謡やことわざで「権兵衛が種まく カラスがほじくる」というフレーズがあります。努力が実らない、無駄なことという意味ですが、このカラスがブトかボソなのかということが、観察会などで時々話題になります。いろいろ意見があるようですが、私はボソの可能性が高いと考えています。
その理由は3つあります。まずはそれぞれのカラスの好む生息環境の違いです。
ボソは田畑の多く残る環境、ブトは森林環境に生息する傾向にあります。
ブトは都会にいる鳥と一般的には認識されていますが、英名はジャングル・クロウ(Jungle Crow 森のカラス)と言って、実は森林が本来の生息環境です。
もちろん『例外』的に、街や林にボソがいることもありますし、田畑にブトがいることもあります。
次に、餌の採り方の違いがあります。ブトは地上にいる時間をなるべく少なくする傾向にあり、地上をのんびり歩くことはあまりしません。
落ちているセミを見つけて降りてきたところ |
ボソは田畑をノコノコと歩いて時々ついばむというムクドリのような餌探しをしていることが多いです。
最後に、人への警戒心の違いがあります。ブトはこちらがじーっと見ているとその視線をすぐに察知して飛び去ってしまいますが、ボソは比較的のんびりとしています。
駅のホームで電車を待っている人のすぐ後ろを平気で歩いています |
以上の生態の違いから、権兵衛さんが種を巻いている後ろをゆっくり歩いているカラスは、ボソのほうが当てはまるように思います。
カラスの行水は本当に短い?
カラスの行水」ということわざがあります。入浴時間が短いことを喩えたものです。しかし、ほかの鳥に比べて水浴びの時間が特に短いという印象はありません。カラスが群れで水浴び場に来ると、豪快にしぶきをあげて代わる代わる水に入るので、出入りが目について一羽当たりの水浴び時間が短く見えたのでしょう。以前にも紹介したことがありますが、鳥の水浴びは比較的観察しにくい光景です。羽が濡れて飛びにくくなることで敵に襲われやすくなり、危険を伴うからです。
しかし、カラスは敵が少ないことや群れの中に見張り役がいることもあり、比較的水浴びする光景が見られるのです。
水浴びが観察され易いカラスだからこそ、このことわざが生まれたのかもしれません。
脚を使って餌を押さえる
普通、鳥は餌を食べるとき、嘴で食べ物を挟んで丸呑みをします。見つけた餌が大きかったときは、振り回したり、嘴で突いたりします。しかし、カラスの場合は脚を使います。脚で押さえることでしっかりと固定できますし、ほかの鳥に横取りされる危険を小さくできます。よく見ると利き足があるようで、餌を食べているシーンを見たらどちらの脚を使うか観察してみましょう。
脚で押さえることでしっかりと固定できますし、ほかの鳥に横取りされる危険を小さくできます。よく見ると利き足があるようで、餌を食べているシーンを見たらどちらの脚を使うか観察してみましょう。
遊びが大好き
カラスは体が大きく、餌を効率的に探す知恵を持っているので、他の鳥とは異なり、一日の中で「餌を探さなくてもいい時間」があります。その時間を使って、カラスはよく「遊び」をしています。私が最近見たものでおもしろかったのは、次の2例です。
まず始めに2012年4月に東京都小金井公園で見た発泡スチロールで遊ぶカラスです。
最初は勢いよく嘴で突いて「ボス、ボス」という音を立てていたのですが、それには途中で飽きたのか、縁をくわえてむしり取る行動に変わりました。
最初は巣材に使うためかとも考えましたが、画面右側にあるようにむしり取った発泡スチロールが散乱させたままで飛んでいってしまったので、きっとこれは遊びだったのでしょう。
次に2013年1月に群馬県多々良沼で観察した氷を割って遊ぶカラスです。
沼のほとりを歩いていると、「パリッ、パリ」と氷の割れる音がしたのでその方向を見ると、カラスが氷をくわえてそっと割っているところでした。
嘴の動きを見ると、氷が割れるか割れないかのところで力を加減しているのがわかりました。ちょうど、小学生の子供が水たまりにできた氷の上をソロソロと歩き、割れるか割れないかの微妙な境を探っていたり、その割れるパリパリ音を楽しんだりしているような感じなのでしょう。
割った氷は隣の池に捨てていましたので、これも遊びの一つだったのだろうと思います。
これ以外にも電線に逆さまにぶら下がって遊んでいる光景や、滑り台を何度もすべるカラス、坂になっている雪の上を滑って遊ぶカラスも観察されています。
『遊び』ができるということは、鳥の中ではたいへん頭脳が高いことの証です。
カラスとの共存のために
これまでカラス観察のおもしろさを紹介してきましたが、ゴミを散らかすからやはりカラスは嫌いという方もいるでしょう。しかし、これは人間のゴミの出し方を徹底すれば解決すること。カラスを悪者にするのは、ちょっと早合点だと私は思います。
事実、ネットをしっかりかけたり、生ゴミがあることがわからないようにしたりするなどしっかりとカラス対策をしている場所では、カラスは絶対に悪さをしません(できません)。
また、近年はカラスに餌付けをする方もいらっしゃいますが、これはゴミを漁るカラスに変貌させてしまうこともよくあるので、絶対にやめましょう。
また、攻撃された経験のある方にとっては、やはり怖いというのも当然のご意見です。しかし、カラスが恐怖を感じる前にちょっと一呼吸をして、攻撃された時期を思い出してください。
攻撃的になるのは子育ての時期だけで、しかも攻撃するのは巣の主の夫婦だけです。ヒッチコックの映画のように集団で人に襲いかかることはありません。
カラスは3月頃から巣作りが始まるので、画像のような木の枝を折る行動などを見かけたら、近くで巣作りをしている可能性があります。
小枝が重なっているものや針金のハンガーが混じっている写真のような巣
を見つけたらカラスの可能性が高いので、近くに巣のそばでじっとしているカラスいるか探しましょう。
歩道橋やマンションなどのそばなどにあると、5〜6月に人が攻撃を受ける可能性が高くなる場合もあるので、専門家や行政に相談するとよいでしょう(撤去しない場合もあるようです)。
雛が孵化をしてから巣立ちまでの時期(5〜6月)は特に攻撃的になります。
迂回路があればその道を避けるようにしましょう。どうしても通らなくてはならない場合は、傘をさして歩くのがベストです。鳥の中では大きい部類に入るカラスといえども、人間は「大きな相手」です。背後から攻撃してくるので、傘は後頭部を守るようにさせば大丈夫です。
また、かなりしつこく攻撃してくるときは、巣立ったばかりに雛がそばにいることが多いので、巣立ち雛から離れてしまえば攻撃はされなくなります。雛は目の色が少し青っぽくて、口の中が真っ赤ですので、この特徴をもつカラスに近づかなければ問題はまったくありません。
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カラスがニュースになるのは、ゴミを散らかすことや攻撃的になる時期のトラブルがほとんどですが、実際のカラスを見ると羽毛には紫や緑などの光沢があり、非常にきれいな鳥だと気づく方も多いようです。
カラスを知恵や天地創造の神様として崇める地域がありますが、それはカラスの美しさや賢さを昔の人はよく見ていたからでしょう。
『自然との共生』が、地球上で人間が生き残っていくための最大の課題となったとも言われる21世紀。
悪い面だけを見て野生生物を排除してきた過去の時代から、生き物の習性を理解して解決策を実行していく時代になるでしょう。次世代に誇れる21世紀にするためにも、まずはカラスのような身近な生き物との共存を心がけていきたいものです。
最後に。カラスって、よく見るとかわいいい顔をしていますよ。
先入観を持たず、まずはちゃんと見ることからはじめてはいかがですか?
撮影地:
神奈川県(綾瀬市、海老名市、平塚市、大和市)、群馬県(館林市、)埼玉県(入間市、狭山市、所沢市、飯能市)、東京都(台東区、調布市)
お勧め機種:
カラスは体が大きいので8倍の双眼鏡でも十分観察できますが、行動をしっかり観察したいという方は10倍双眼鏡がお勧めです。
●倍率10倍のもの
・エンデバーED 1042 :売価¥39,800
・エンデバーED 1045 :売価¥44,800
・スピリットED 1042 : 売価32,800円
・スピリットED 1045 : 売価36,800円
●倍率8倍のもの
・エンデバーED 8420 :売価¥39,800
・エンデバーED 8545 :売価¥44,800
・スピリットED 8360 : 売価29,800円
・スピリットED 8420 : 売価32,800円