秋の風物詩、モズの高鳴き
鳥の観察が生活の一部になると、人生がとても豊かになります。鳥たちのさえずりに耳が反応することで春を早く感じることができたり、初夏に巣立ってまもない小鳥の雛たちのかわいらしい姿を発見することで、季節の巡りを感じるようになるからです。秋には、特に季節の到来を感じさせる鳥がいます。モズです。
大きさはスズメを一回り大きくしたくらい(約20cm)で、尾羽がやや長め。ゆっくりとその尾を振ります。雄の顔に太い黒い線があり、翼に小さい白斑があるのが特徴です。
雌は全体に茶色っぽく、お腹に鱗のような模様があることで、雄と見分けができます。
モズは一年中日本にいる鳥ですが、9月ごろから越冬のための縄張りを確保するため、「ギチギチギチギチ、キョンキョン、キィーキィーキィー」などとけたたましく大きな声で鳴きます。秋に大きな声で鳴く鳥は少ないため、昔から『モズの高鳴き』と呼ばれて、秋の風物詩となってきました。
縄張りが決まると、この高鳴きは止めてしまいます。
モズを漢字で書くと『百舌』
モズを漢字で書くと『百舌(あるいは百舌鳥)』。鳥の名前で、“百の舌”とは、どういうことなのでしょう?高鳴きを止めてしばらく静かに止まっているモズがいたら、耳を澄ましてみましょう。高鳴きとは異なり、嘴をほとんど開かずに小声で、「ピーピーピー、チュイ、キュルキュル」などと鳴くことがあります。これはモズが他の鳥の声を真似ているのです。しかも、たくさんの種類を真似ることができるため、“百舌”という漢字が当てられたのです。
実際に100種もの声真似をするモズは記録されていないようですが、私は2012年秋に埼玉県で北海道の原野に生息する鳥たち(コムクドリ、オオジシギ、ビンズイなど)の声を真似するモズに会いました。きちんと聞き分けられた声はそれほど多くなかったのですが、さまざまな鳥の声真似をすることは実感できました。
ときには獰猛な一面も…
モズは、バッタやコオロギ、カマキリなどの昆虫が主な食べ物です。丸呑みをするには少々大きい昆虫も餌にしているため、肉を引き裂けるように嘴の先端がタカやワシのような形をしています。昆虫が捕れないときは、トカゲやカエル、時にはネズミ、小鳥などを襲って食べることもあります。
私が子供の頃に飼っていたジュウシマツはモズに襲われてしまいました。このような習性から猛禽類と呼ばれることもありますが、スズメ目モズ科に分類されており、厳密にはワシやタカの仲間とは違います。
ホオジロと同じような環境を好むモズ
モズがよくいる環境は、餌を探す草地と身を隠す樹林がモザイク状に存在するところ。草地の多い里山や農地などです。以前紹介したホオジロとほぼ同じ環境を好むため、彼らを探した場所に足を運ぶのがモズを発見する近道です。芝生広場とちょっとした雑木林のある敷地の広い公園などにもいることがあります。
周囲を見渡せる木のてっぺんが好き
モズを実際に観察するには、高いところにじっと止まっているのを見つけるのがよいでしょう。見つけ方はホオジロとほぼ同じで、高い木の枝先を探しましょう。大きい鳥ではないので、最初のうちは枝先に葉や枝が多いと見つけにくい場合があるかもしれませんが、双眼鏡の中に鳥の姿がないか、じっくり探してみましょう。
探し方のコツは、周囲より少し高い木の枝先をくまなく確認することです。
周囲に適した場所がない場合は、電線やテレビアンテナ、杭の上などにもやってきます。
今回は画像に矢印を入れていませんので、この画像を参考に身近なフィールドで探してみてください。
モズが高いところに止まっているのは、下の草地を見下ろして獲物のバッタなどが動くのを待っているのです。獲物を見つけると、そこから落ちるように舞い降りて捕えます。
人の動きをよく観察している鳥
モズは、よく人間を観察している鳥だと思うことがあります。写真をご覧下さい。これは私の家の近くの公園で撮影したもので、杭の右側は前の週まで草薮になっていました。
よく見ると、手前から2本目の杭の上にモズが止まっています。
このモズは、造園業者(奥の白いのが造園業者の車です)が杭の右側部分の草刈りをしているところをじっと見ていました。このモズが何をするのかしばらく観察を続けたところ、モズは草刈り作業で追い出されたバッタなどの虫を捕まえては食べていました。
自分より体が大きい人間が草原に入ることで虫たちが驚いて飛び立ったり、茂みに隠れていた虫たちが草刈りによって姿を現わすのを知っていたのでしょう。造園業者はモズにまったく興味がなかったので、危害を加えられる心配もありません。モズは人間の動きを良く見ていると感心した出来事でした。
モズの“はやにえ”を探してみよう
モズのいる環境を見つけることができたら、次に“はやにえ”を探してみましょう。はやにえとは、捕えた獲物を枝などに突き刺した状態をいいます。
獲物が大きく足でうまく押さえられないときに固定の役割で刺したり、獲物が多く捕れたときに一時保管するために刺しておくと言われています。おおよそ人の目の高さにありますので、モズの姿が見られる場所ならば見つけられる可能性があります。
はやにえをよく観察すると、はやにえにされた生き物の急所に枝が見事に貫通しています。写真のカエルも腹部の急所を突いていました。こんなことを書くと、モズが残忍な鳥のような印象を受けてしまいますが、彼らにとっては自分の命をつなぐために身につけた“生きる技”ですし、獲物となった生き物に無駄な苦しみを与えない、モズのやさしさのようなものを私は感じています。
里山とともに生きてきたモズ
近年、私の鳥を見る仲間から「モズが減ってきたような気がする」という意見をよく聞くようになりました。草地と樹林が混在する里山環境を好むモズは、公園や河原も利用するので、いますぐ保護の手を差し伸べなくてはいけない鳥ではないと思います。しかし、宅地化や農耕放棄による里山の環境変化によって、モズには棲みづらい環境が増えていることは否めません。
最近、日本の里山環境は人間の生活と自然のサイクルが見事の調和した例として海外から注目されてきています。また、日本の食料自給を支えてきた環境の一つでもあります。
モズがずっと棲み続けている日本にすることは、日本人にとっても、自然を愛する世界の人々にとっても、きっと有益なことだと私は考えます。
日本にモズがいるということを、大切にしていきたいですね。
撮影地:
茨城県(土浦市)、神奈川県(海老名市、秦野市、藤沢市)、埼玉県(入間市、坂戸市)千葉県(船橋市)、東京都(清瀬市、調布市)、新潟県(佐渡市)
お勧め機種
モズは木のてっぺんに長く止まることが多いので、倍率の大きい双眼鏡でもすぐに視野に捉えることができますし、初心者の方でもスコープで観察できる機会が多いでしょう。
高いところに止まっている姿を見るスコープは、姿勢に負担がないので傾斜型がお勧めです。
双眼鏡
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・エンデバーED 1045 : 売価44,800円
スポッティングスコープ
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・エンデバーHD 82A:売価78,800円
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