世界的珍鳥、ヒヨドリ!
3月に入ると、頬を伝う風もだいぶ暖かくなり、ニュースで桜の開花情報をよく耳にするようになると、私はソワソワします。でも、目的はお花見ではなく、そこにやってくる鳥、ヒヨドリを観察するためです
ヒヨドリは全長27.5cm。
日本全国、多様な環境に適応した鳥で、北海道から沖縄までどこでも見られます(※注)。「ヒーヨ、ヒーヨ」と大きな声で鳴き、それが名前の由来にもなっています。飛び方は、ハクセキレイのように深い波形を描く特徴があります。
全身が灰色でお腹に白い斑点があり、頬付近が濃い茶色です。
お世辞にも綺麗な色ではないのですが、実は世界的には日本を中心とした極東地域にしか生息しない珍しい鳥で、海外からのバードウォッチャーには憧れの鳥。友達になった英国人の鳥仲間が日本に遊びにきてくれたときに、「まずヒヨドリを見たい!」と言っていたくらいです。
お花見しながら、バードウォッチング
日本全国どこでもいるヒヨドリですが、じっくり観察するには今がお勧めです。場所は桜の花が咲いているところ。身近な公園や河原の土手で桜が咲いていればきっといます。またお庭で桜が咲いていれば、きっとそこにも訪れているはずです。桜の花も楽しみつつ、ヒヨドリがいないか探してみましょう。
でも、ヒヨドリは一体何をしに桜の花にやってきているのでしょう?ヒヨドリも「美しい桜の花を愛でにやってきている」といいたいところですが、彼らの目的は残念ながら、桜の蜜です。行動をよく見ていると、一つ一つの花に嘴を差し込んでいます。人間は「花より団子」ですが、ヒヨドリは「花より蜜」のようです。
桜の花に来ているヒヨドリを見ていたときのことです。相変わらずヒヨドリはたくさん来ていたのですが、たくさんのヒヨドリが来ている桜とそうでない木があることに気がつきました。見た目に桜の咲き方や咲いている花の数、下で宴会をしている人の数や騒ぎ方に大きな変化はなかったので、おそらく花の蜜の出方に違いあるのだと予想しています。そういう違いをどうやって見抜くのかは観察を続けていく必要があるのですが、自然界の不思議は大自然の中にあるとは限らなくて、身近なところにもあるのだということだと、私はつくづく感じています。
アクロバティック・バード ヒヨドリ
ヒヨドリの花の蜜を吸う行動を見ていると、細い枝先にほとんど逆さまになっていることがあります。
桜の蜜を吸うときばかりではなく、虫や実などを食べるときにも同じようにほぼ逆さまの姿勢であることも珍しくありません。
こんな格好でお行儀が悪いと思いますが、彼らは生きるために食べものを探すのに必死なのです。
ヒヨドリは美食家?
ヒヨドリは甘いものが大好きで、蜜がよく出るツバキやウメの花にも蜜を吸いにやってきます。
しかし、花に蜜がなくなると花びらも食べはじめます。私が実際に見たことのあるヒヨドリの“花びら食”は、八重桜、モクレンなど樹木が多いのですが、パンジーなど草本類でも確認されているようです。高級なレストランでは、花びらを使った料理もあるようですので、ヒヨドリはずいぶんと美食家なのかもしれません。
菜っ葉も大好き
ヒヨドリは元々森林の中に住む鳥でしたが、戦後に街の中にも進出し、食生活も変えてきました。そのなかでも、アブラナ科の植物(キャベツ、ブロッコリーなど)を食べるようになったのは、大きな変化の一つです。
おそらく春に木の芽を食べるという行動を発展させたものでしょう。
昆虫や木の実などの餌が少なくなる冬から初春や雪の日にこの行動は顕著になります。
春キャベツの産地で有名な神奈川県三浦半島などでは、ヒヨドリが大群でやってくることもあり、被害が大きくなることもしばしばです。
ヒヨドリがいないと困る植物たち
きれいな花びらを食べたり、人間の栽培する菜っ葉を食べたり、ヒヨドリは嫌な鳥だな〜なんて思った方もいるかもしれません。しかし、ヒヨドリがいないと植物たちはたいへん困ってしまうのです。前にも書きましたように、ヒヨドリは木や草の実を好んで食べます。
鳥は飛ぶために体重を軽くしておく必要があり、食べたものをなるべく早く糞として出しますが、ヒヨドリは移動能力が高いために、植物にとっては遠くに種を運んでくれる大切なパートナーなのです。餌が少ない時期には、普段はやってこない地上に降りて落ち葉の下にある草の実を食べることもあります。
また、ウメはツバキ、サザンカなどは、ヒヨドリがいないとたいへん困るのです。これらの花は花粉を運んでくれる虫が少ない時期に花を咲かせますが、ヒヨドリが蜜を吸うために花に嘴を突っ込むことで嘴に花粉が付着し、別の木に行ったときに受粉を助けているのです。自然界での生き物の役割を知るたびに、ある一面だけで判断をしてはいけないと強く感じます。
群れで渡るヒヨドリ
春と秋の2回、鳥たちは渡りをするのですが、普段のその渡りを実際に見る機会というのは多くはありません。しかし、このヒヨドリは群れで明るい時間に渡りをするために、誰にでも観察できます。特に秋の群れが大きくなる傾向があります。
地図を広げて、海岸線にある「○○岬」や「○○半島」といった海に突き出た場所で、なるべく先端部がよいでしょう。春は3-5月、秋は9-10月ころがよいでしょう。見晴らしの良い安全な場所に座っていれば、海に向かって飛び出して海面スレスレをいくヒヨドリの群れが観察できます。
有名な場所は、北海道白神岬、神奈川県真鶴半島、愛知県伊良湖岬、愛媛県佐多岬などがあります。
渡りは命がけ
渡っていく群れを見送っていると、私はつい「いってらっしゃい!またね!」と声をかけてしまうのですが、しばらく双眼鏡で群れを追っていると急にUターンして帰ってくることもよくあります。きっと沖のほうで何か異変を感じ取って、安全を優先したのでしょう。渡りというものがちょっと油断で命を落としてしまうものであり、その不安があるときは引き返すという、常に死を意識して行なっているものだということを感じずにはいられません。
一年を通じて観察できるヒヨドリですが、季節ごとにさまざまな行動が見られます。ご紹介する今回に限らず、ぜひヒヨドリの観察を続けてくださいね。
撮影地:
神奈川県(座間市、真鶴町、横浜市)、群馬県(館林市)、埼玉県(入間市、川越市、狭山市、所沢市、日高市)、東京都(世田谷区、調布市、三鷹市)
お勧め機種:
ヒヨドリは身近な鳥ですのでどの機種でも楽しめますが、樹林の中にいることも多いので明るいEDレンズ採用のものを使う方が良いでしょう。
・スピリットEDシリーズ
・エンデバーEDシリーズ
注1)
地域によって色の変化があり、南に行くほど色が濃くなる傾向がありますので、文中の解説とは多少印象の異なる羽色のものがいます