一年中日本にいるカモメ、ウミネコ
今回ご紹介する鳥はカモメの仲間、ウミネコです。
背中が灰色で嘴と足の黄色がかわいらしいウミネコ。大きさは45cmほどで、以前紹介したユリカモメより少し大きいくらいです。
しかし、ユリカモメは嘴が赤いので、ユリカモメとの見分けは簡単です。
ユリカモメは冬に見られますが、ウミネコは日本に一年中海の近くに生息し、主に東北や北陸、山陰などの沿岸域で繁殖をしています。鼻にかかったような「ミャーオ」とか「クワーオ」と聞こえる声で鳴き、それが猫の声のようだということで、ウミネコの名前があります。
カモメ・オフシーズンだからこそ!
カモメの観察というとベテランの方は「冬がベストシーズン」と言われ、冬に出かけることを勧められますが、冬はロシアなど北国から似たような容姿をした多くの種類のカモメが大量に渡って来るので、図鑑とにらめっこしてもどれがどの種類だかわかりにくく、初心者にはハードルが高くなってしまいます。
その点、秋が来る前ならばウミネコがほとんどですので(注1)、ほかの種類を気にしなくて良いこの時期にしっかり観察するのが得策です。
鳥への興味がまして、カモメ識別に挑戦したくなったら、まずは年中見られるウミネコをこの時期にしっかり覚えて、ウミネコとどこが違うかを基軸に観察を続けるとよいでしょう。
港へ行こう!
ユリカモメは池や公園などにも飛来していますが、ウミネコは海にいることがほとんどです(注2)。いちばん良いのはウミネコの大好物の魚が水揚げされる漁港です。
トビを紹介したときに見に行った漁港などでは、周囲にきっとウミネコもいるはずですので、探してみましょう。水面や港に停泊中の船の上にもいることがあります。
もし、漁港がなければ、連絡船などが出る港でも構いません。港内の街灯の上などにも注意して探してみましょう。
乗船する機会があれば、展望デッキに出てみましょう。航路によっては後をついてくることもあります。
近所に港なんてない!という方がいましたら、とにかく海を眺められる場所へ行ってください。人が簡単には近づけないような岩場やテトラポットがあれば休み場にしていることが多いので、そのような場所を丹念に探していくとよいでしょう。
天気が悪い日も狙い目
本来野鳥観察は天気が悪いと鳥たちは見えにくいのですが、ウミネコは天気の悪い日もお勧め。沖合の風が強くて餌が探せないときに、港に大群で避難してくることがあります。
このような日には多数のウミネコが見られますので、港に出かけてみるのもよいでしょう。
でも、安全を最優先にすることをお忘れなく。
風が強く、波しぶきが強く打ち付けている状況ならば、すぐに観察を中止して安全な場所へ移動してください。
嘴の先端に注目
ウミネコの嘴は黄色いと紹介しましたが、厳密にはすべて黄色ではなく、先端部分に黒と赤の模様があります。
日本に生息する嘴の黄色いカモメ類は、嘴の先端の斑がなかったり、赤い斑だけだったりします。そのため、この黒と赤の両方がある斑を覚えておくことは、ウミネコと識別する上でとても重要なポイントになります。
この黒赤模様を肉眼で観察できる距離まで近づくのは難しいこともありますが、人が近づいてもすぐには逃げない漁港などならば双眼鏡で十分確認できます。
カモメ界の黒帯選手!
ウミネコは英名でブラック・テイルド・ガル(Black-tailed Gull)といい、黒い尾をしたカモメという意味です。その名の通り、尾羽が黒くなっています。
普通、カモメ類は幼鳥の時期、尾羽に黒い帯があり、成鳥は白くなるのですが、ウミネコは成鳥になっても尾羽が黒いままです。“ウミネコはずっと黒帯”と覚えてください。
ちなみに、ウミネコのように“大人になっても尾羽が黒い”特徴を持つカモメは世界には5種類ほどいますが、日本で見られるのはウミネコだけです。
茶色い幼鳥
ウミネコの幼鳥は茶色い模様をしています。
足や嘴もピンク色で、似てもにつかない姿です。
さらにやっかいなのは、4年ほどかけて少しずつ成鳥の模様に近づいていくので、さまざまな羽色の若い鳥がいるのです。
嘴がやや黄色くなり始めて首のまわりの茶色が残っているものや、
翼の羽毛がまだ灰色になりきっていないもの、
など、いろいろな状態のものがいます。
もしこれらの見分けが難しいと感じたら、まずはしっかりと成鳥だけを観察するのがよいと思います。そういう私も見始めたころは自力でウミネコと識別できたのは成鳥だけでそれ以外はまったく分かりませんでした。
ウーパールーパーとの共通点?
一昔前、ウーパールーパーという生物が注目されました。正式にはメキシコサンショウウオという両生類の一種で、淡桃白色の体に赤い鰓(えら)が特徴です(ウーパールーパーとは、宣伝会社が売り出すために付けた“流通名”です)。
この“ウーパールーパー”の状態は『幼形成熟』といって、幼生や幼体のときの特徴が残ったまま性成熟をして繁殖ができることをいいます(ウーパールーパーは、鰓が外部に残っているのが幼生の特徴)。
ウミネコの場合も本来幼鳥の特徴である“尾羽の黒帯”が残っているのに成鳥であることは、この幼形成熟の考え方が役立ちます。先に述べた嘴の赤黒模様も、カモメ類では本来幼鳥から成鳥に変わる途中の段階で見られるものですが、ウミネコでは成鳥になっても残ります。
なぜ、幼鳥のような特徴が残しているのか?
諸説ありますが、専門家によると繁殖の形式による可能性があるとのことです。
ウミネコはコロニーと呼ばれる集団繁殖地で子育てをしますが、ほかのカモメ類に比べて密集して巣を作る傾向があり、隣の巣との距離が近くなるため、営巣場所を巡る争いが起きやすくなります。そこで幼鳥の特徴を残すことによって、視覚的に相手の攻撃性を弱めさせているのではないかということです。
人間でも大人は子供のかわいらしさの前では、多少のことは許してしまいますよね。それは無意識のうちに目から「子供らしさ」を情報として捉えていて、成人相手よりも攻撃性が抑制されるからだというのです。
ウミネコは過密な繁殖地でも子育てをうまく進めていくために、まずは隣の巣の番からの攻撃を抑えて繁殖を失敗しないように「幼鳥の特徴を残している」らしいのです。長い年月を経て得た特徴の背景に、こんなことがあるかもしれないなんて、とてもおもしろい話だと感じています。
漁師さんと仲良し
難しい話をしてしまったので、ちょっと楽しい話をしましょう。
先ほど、ウミネコは集団で繁殖すると書きましたが、海辺にあるそのような繁殖地は、とても声がうるさく、糞などの臭いもひどいものです。
しかし、漁師さんたちはウミネコの集団繁殖地を手厚く守ってきました。実はウミネコは漁師さんたちにとっていい漁場を教えてくれる大事な存在なのです。
ウミネコは海上をゆっくりと飛び回りながらイワシなどの小魚を探していますが、体が軽いため深く潜ることはできません。そのため、下からカツオやマグロなどが小魚の群れを水面まで追い上げている場所を見つけると、ウミネコはそこで大きな群れを作ります。それが目印となって漁師さんは網を入れる場所を効率よく決められるというわけです。
漁師さんが大切にしてきたウミネコを、バードウォッチャーも大事に見守っていきたいですね。
注1)
怪我や繁殖に参加しないなどの理由で、本来北国に帰るカモメ類が日本に留まっていることもあります。
注2)
大きな河川などを通って内陸部に入ることもありますが、多くはありません。しかし、近年は上野不忍池などで繁殖する個体が見られ始めています。
撮影地:
神奈川県(三浦市)、静岡県(伊東市)、千葉県(鴨川市)、東京都(台東区)、新潟県(佐渡市、新潟市)
お勧め機種:
ウミネコは比較的人慣れしていることが多く、体も大きいので姿を見るだけならば8倍などの双眼鏡でよいのですが、嘴の先など細かい点もきちんと確認したいのであれば10倍をお勧めします。テトラポットなどに止まっているウミネコは長時間じっとしていることが多いので、体勢が疲れにくい傾斜型のほうが便利でしょう。
<双眼鏡>
エンデバーEDシリーズ 10倍
・エンデバーED 1042
・エンデバーED 1045
<望遠鏡>
・エンデバーXF 80A
・エンデバーHD 82A