南へ渡る途中のノビタキ


秋は夏鳥が南へ去り、冬鳥が北国からやってくる季節です。
鳥たちは移動の途中に平地を経由していくものも多いので、身近な環境でさまざまな種類の鳥を楽しむことができます。
しかし、似た色合いの鳥も多いせいか、ビギナーの方には見分けが難しく感じてしまい、バードウォッチングを続けることを諦めてしまうことがあるようです。

そこで、今回は“同じような環境で見られる同じような色合いの小鳥”の識別の練習に適した鳥、ノビタキを紹介します。



大きさは約13cmで、スズメよりも一回り小さいくらいです。
全体的な印象は淡い褐色です。
ノビタキは、日本へ夏に繁殖のためにやってくる鳥で、北海道の平原や本州から九州の高原地帯に飛来して子育てをします。秋は南へ向かう途中に平地を通過していきます。

写真で秋のノビタキの色をご覧になって、以前紹介したジョウビタキの雌によく似ていると感じた方もいるかもしれません。

しかしジョウビタキは冬鳥ですので、ノビタキと入れ替わるように日本にやってきますので、実際は識別でそんなに心配はいりませんのでご安心ください。  
ただ、気の早いジョウビタキやのんびりしたノビタキも稀にいて、観察時期が重なることもあります。ノビタキの「全身にややオレンジ色味がかる点」や、「背面に筋状の黒っぽい線」を確認をしましょう。



ジョウビタキの雌の写真も載せておきますので、大きな白斑の有無や背中の模様の違いなどを比べてください。



秋の草原へ


ノビタキは漢字で書くと「野鶲」。野原のように開けた場所が好みの環境で、稲穂が風に揺れる水田や畑、草地の多い河原や堤防にやってきます。





同じヒタキ科でも、キビタキは森の中に生息します。図鑑でそれぞれの種類が好む生息環境が違いも確認しておくと、野外で役立つスキルにつながります。


“ちょっと飛び出た草”がお気に入り


ノビタキの写真を見て、周囲の色合いに似た体色で自分には見つけられないかもしれないと不安になったかもしれません。

しかし、ノビタキはサービス万点の野鳥で、草の上を飛ぶ虫や地面に隠れている虫を見つけやすい “ちょっと飛び出た草”によく止まるので見つけるのは非常に簡単です。
画像の→のような草の先端部分を双眼鏡で確認していくと、いずれ姿を捉えられると思います。






根気よく場所を探していきましょう。
ノビタキは周囲を見渡しやすい場所ならば良いようで、田んぼや川の堤防にある杭の上などにもよく止まっています。

クリックすると拡大画像が表示されます


同じような時期に、同じような環境に生きる、同じような色の鳥


ここまでの解説で、連載を長くご覧下さっている方の中で「過去にも同じような説明を受けたような…」と感じた方がいらっしゃるかもしれませんが、実はノビタキの見つけ方は、以前紹介したモズホオジロの探し方と非常に似ているのです。

秋にノビタキに出会う近道は、ホオジロとモズを探しに行った環境に足を運び、モズとホオジロを探したときのように探すことです。
一つ注意点としては、ホオジロやモズよりも草地が広い場所を好む傾向があること。その点を踏まえれば、きっとノビタキを見つけることは難しくないでしょう。


まずはモズと見分けよう


モズは田んぼの杭や草のてっぺんをよく利用します。



ノビタキとの見分けは、顔の模様や尾羽の長さなどに注目しましょう。
雌の場合は雄よりも色合いが地味でノビタキに似た雰囲気ですが、これはモズのほうが尾羽の長いことで見分けられます。



また、鳥との距離が遠い場合は、モズならばゆっくりと尾羽をふる行動も識別のポイントになります。


次にスズメと見分けよう!


秋の草地にやってくるスズメは、草の種を食べにきていることがほとんどですので、茂みの中や地面に近い場所にいることが多いですが、警戒のために草の上のほうに止まることがあるため、念のため注意が必要です。
スズメとノビタキはお腹の淡い模様は似ていますが、顔の白黒模様は大きく違います。



経験が必要ですが、スズメはノビタキに比べると重いので、飛び方に“軽やかさ”ないことも、少しずつ覚えていくとよいでしょう。

ホオジロと見分けよう!


最後はホオジロとの見分けに挑戦です。モズやスズメに比べ、ノビタキとの識別はちょっと難しくなりますが、ホオジロの体は全体的に赤茶色が濃いことに注目してください。



ホオジロの雌は、雄に比べると色が少し淡くなるのでノビタキの色合いが近くなり、見分けを慎重にする必要がありますが、草の種を食べるホオジロは嘴がノビタキよりも太いことや、嘴の付け根と目を通る後頭部に向けての筋状の線が太いことや尾羽がノビタキよりも長いのが特徴となります。



ノビタキの顔は全体的に色が単調です。



ホオジロの雌雄共通の特徴として、ホオジロならば飛んでいるときの尾羽の外側に白線が出ますので、飛ぶ姿も追い続けましょう。

黒っぽいノビタキに会えるかも!


もしノビタキがたくさんいる場所を見つけたら、頭の黒っぽいノビタキがいないか探してみてください。



これはノビタキの雄で夏羽の名残のある個体と言われています。
実は夏に繁殖地で見かけるノビタキの雄は白黒のメリハリがしっかりしていて、胸がオレンジ色のたいへん美しい姿をしています。




夏に本州の高原や北海道の平原に行く機会がありましたら、ぜひ白黒頭にオレンジ胸模様ノビタキの雄を探して見てください。


草のてっぺん争奪戦!


去年の秋、ノビタキの観察をしていたときのことです。
ノビタキがお気に入りの草のてっぺんで近くに虫がこないか待っている姿を観察していると、ノビタキよりも黄色みのある鳥が「その場所、どいて!」と言わんばかりに飛び回り始めました。



この鳥はセッカという鳥で、セッカは一年中平地の草地に生息する鳥です。




ノビタキはこの地を“通過”するだけであっても、彼らにとっては大事な縄張りの侵入者です。
しかも、セッカもノビタキも同じように虫を捕えて食べる鳥なので、セッカはノビタキに長居されると、自分が餌を取ることができなくなってしまうのでしょう。 追い払おうと必死に飛び回っていました。
この迫力に負けたのか、ノビタキはしばらくするといなくなってしまいました。 

この姿を見て、私も鳥の生息環境に立ち入っていることを改めて感じ、予定よりも早めに移動を開始しました。

見た目にはごく普通の草地ですが、鳥たちにとっては大事な住処です。
人間が長居をすることで彼らの生活を乱してはいけません。
“バードウォッチングは、鳥のお宅にお邪魔している”ということを、セッカが改めて教えてくれたように思いました。



撮影地:
愛知県(田原市)、神奈川県(綾瀬市)、群馬県(館林市)、高知県(土佐市)、埼玉県(入間市、川越市、川島町、坂戸市、狭山市)、栃木県(日光市)、新潟県(上越市、佐渡市)


お勧め機種
ノビタキは開けた場所にいるので小型の双眼鏡でも十分楽しめますが、距離が遠いこともあるので、双眼鏡は明るいEDレンズ搭載機種を使うのが目も疲れなくてよいと思います。また、杭の上などでじっとしているノビタキの姿はとてもかわいいいので、ぜひ望遠鏡で観察してほしい姿です。

<双眼鏡>
エンデバーED II シリーズ
エンデバーEDシリーズ

エンデバーHDシリーズ(直視型)
エンデバーXFシリーズ(直視型)




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