赤いベストを着たシジュウカラ
連載の38〜39回は、イソシギやノビタキという“識別に重点を置いた観察”を紹介したので、今回は気分を変えて、秋の野鳥たちの行動を観察するおもしろさを教えてくれるヤマガラを紹介します。
以前紹介したシジュウカラの仲間で、全体的な形、大きさ、動きもシジュウカラによく似ていますが、色彩が大きく異なります。
胸や背中の一部が赤茶色で、ちょうど赤いベストを着たような模様です。背中から翼、尾が青灰色ですので、これもまたベストを着ているかのように見える要因です。
日本と台湾、朝鮮半島などにしかいない、外国のバードウォッチャーには憧れの鳥ですが、日本では里山から山地の山林にかけてごく普通に見られます。
軽やかに飛び回り、「ツィーツィー」とか「ズィーズィー」と聞こえる声を出しながら、時々鼻にかかったような感じで「ニーニーニー」などと鳴く姿を森の中で楽しむことができます。
正面から見て「山」の形
私が鳥を見始めた子供の頃、なかなかヤマガラを覚えられなくて、困っていました。あるとき、森の中でヤマガラに会ったときに正面を向いていて、嘴の根元から喉にかけての黒い模様が「山」のような形をしているのに気づき、「ヤマガラは正面から見て“山”」と覚えました。
図鑑というのは、だいたい横向きで正面図がないものです。鳥は図鑑だけで覚えるものではなく、生きている姿を実際に見ることが重要なことだということを、ヤマガラには教わったように思いました。もし、ヤマガラをなかなか覚えられないという方がいましたら、覚え方の一つとして参考にしてみてください。
虫をよく食べるシジュウカラの仲間
ジュウカラの仲間であるヤマガラは春から秋にかけて、よく虫を食べています。初夏に山を歩くと、葉の裏や枝を飛び回って、イモムシなどを捕まる姿が見られます。
一度弱ったミンミンゼミをバリバリと音をたてて食べているところを観察したことがありますが、これは非常にまれなケースだと思います。
秋限定! ヤマガラ探しは、木の実探しから
虫が大好物のヤマガラの観察ですが、秋にはヤマガラを簡単に観察できる方法があります。
それはエゴノキという木のそばで待ち伏せをする方法です。
ヤマガラはこのエゴノキの実が大好物なのです。10月以降、このエゴノキの実がなっている木のそばにいれば、ヤマガラのほうからやってきてくれるのです。
「植物や木の実を見分けるなんて無理〜!」という方でも安心です。
エゴノキの実は写真のように鈴のように木の枝先からぶら下がるという、とても特徴的な形ですので、森の中でも簡単に見つけられます。
実の大きさはピーナツくらい。
雑木林のある里山や山麓のほか、郊外の緑の多い公園などでも見かける多いので、ぜひ探してみてください。実の多い木は周囲の緑よりもやや淡い緑色に見えますので、全体的な色合いも手がかりにして探すのもよいでしょう。
春に野山を彩るエゴノキの白い花
エゴノキについて、もう少し解説をします。エゴノキは日本全国の野山に自生する樹木で、樹の高さは大きくなっても10mくらいです。春に芽吹き、秋には葉を落とす「落葉広葉樹(らくようこうようじゅ)」です。
5-6月に白くてかわいらしい花を咲かせます。実と同様に、枝からぶら下がっていて、下からのぞきこむと黄色いおしべが見えます。
ほぼ毎年たくさんの花を咲かせ、多いときには木全体が白く見えることもあります。
しかし、時々“お休み”のときがあるようで、年によってはほとんど花を咲かせないときがあります。
そのため、私は春に花のたくさん咲いているエゴノキを見つけると、夏にもう一度、実の状況を確認して、秋のヤマガラの観察に適した場所かどうかを確認しています。
予測をしてそれが当たると楽しいのですが、自然相手のことは必ずしも思い通りにはいきません。途中でたくさんの虫に食べられていたり、実が熟す前に台風が来てほとんど落ちてしまうこともしばしばです。
足場をしっかり
ヤマガラが来るエゴノキを見つけたら、木から10mくらい離れた場所でしばらく静かに待ってみましょう。
最初は警戒していたヤマガラも少しずつ慣れてきて、エゴノキに戻ってきます。観察していると、ヤマガラはエゴノキの実をくわえたあとに、その場では食べずに近くの枝などに移ってから食べ始める様子を観察できるでしょう。
エゴノキの実は非常に硬いので、ヤマガラは両足で実を押さえて嘴を叩き付けて割らなくてはなりません。
そのため、足場のしっかりした水平な枝に移動する必要があるのです。
私は今までヤマガラがエゴノキの実を割る際に、片足で実を押さえている個体を見たことがありません。
ぜひ足元がよく見える場所を探して、両足で実をしっかり押さえている姿を観察してください。
実を選ぶのもたいへん!
ヤマガラの行動を見ていると、実をちょっとくわえた後にその実はやめて別の実を探す行動をすることがあります。
どうも実の熟し具合など種の状態を確認しているようです。選び抜きがなかなかたいへんなようで、実にぶらさがりながら実の状態を調べる光景も見られます。
実が少なくなってくると、地面に落ちたものからも選ぶようになります。夢中になると周囲で観察している人の姿が気にならなくなることもあるようで、すぐそばまでヤマガラのほうから寄ってくることもあります。
秋が深まってきた頃はこんな出会いを期待するのも楽しいものです。
冬に備えて貯えを
ヤマガラがエゴノキの実を食べ終わると、実をくわえて移動し始めることがあります。
しばらく目で追っていると、地面に降りて、その実を埋めていきます。これは冬に備えて食べ物を貯える“貯食行動”と呼ばれています。
地面だけではなく、木の樹皮の隙間なども利用します。
驚いたことに、貯えた実の位置は、ほぼ間違いなくすべて覚えていて、食べ物の少ない時期に食べていると言われています。
しかし、そこは自然界の話。時々忘れてしまうものや、食料が乏しくない冬だった場合は、エゴノキの実は掘り返されずにそのまま放置されます。
実はこれがエゴノキの狙い所。
新しい場所でエゴノキは芽を出すことができるのです。
移動ができない植物は、ヤマガラの移動能力に分布拡大を託していたのです。
実は多くは食べられてしまっても、一部に翌春に芽を出すチャンスがあれば、エゴノキとしてはメリットがあるという関係。
きっとヤマガラとエゴノキが長い年月をかけて培ってきたのでしょう。
このような自然界の“寛容なつながり”には、学ぶべきものが多いです。いつも感心させられます。
撮影地:
神奈川県(小田原市)、埼玉県(入間市、狭山市、所沢市)、東京都(三鷹市)、長野県(信濃町、長野市)、山梨県(山中湖村)
お勧め機種
元気よく動き回るヤマガラですので、双眼鏡が便利でしょう。エゴノキの葉陰が多い場所では明るいレンズを搭載したモデルを利用するのが良いでしょう。野山の散策などでヤマガラの観察ポイントがある場合は、軽いオーロスシリーズなどもお勧めです。
<双眼鏡>
・エンデバーED II シリーズ
・エンデバーEDシリーズ
・オーロスシリーズ