小さくても立派な大人!


 前回、小鳥のメジロの観察に挑戦しましたので、今回はもっと見やすい鳥を観察しましょう。コガモです。



日本に冬鳥としてシベリアなどから渡ってくるカモで、以前ご紹介したカルガモオシドリと同じカモの仲間です。キンクロハジロのように水の中に潜ることはしません(注1)。
「コ」とつくので、メジロのように“また小さい鳥じゃないか!”と心配されるかもしれませんが、大きさとしては36cmでキジバトより少し大きいくらいです。
コガモの「コ」はもちろん「小」で、カルガモのような一般的な大きさのカモに比べて小さいという意味合いで付けられたものです。「子」と間違われる人もいて、以前、コガモを観察しているときにご年配のご夫婦に望遠鏡に入れたコガモを見てもらったことがありますが、「まだ子供なら、頑張って冬を乗り切ってほしいねぇ」とつぶやかれました。
観察しているコガモが既に大人(成鳥)であることを後でそっと説明しましたが、なんて優しいお二人と感動してしまいました。

緑の仮面?


コガモの特徴はいくつかあるのですが、まずは頭が赤と緑の模様になっていることです。




中世ヨーロッパ時代の舞踏会場で緑の仮面をつけた人の顔のような模様です。緑の部分は日が当たると金属的光沢が目立ちます。


同一個体でも向きを変えるとこんなにも光り方が違います



一方、雌は地味な模様をしています。



これまでご紹介したカモの雌の中で一番特徴がないと思います。雄とほぼ同じ大きさですが、初心者には雌の識別は難しいことも多いので、まずは雄をしっかり見つけることをお勧めします。

水平な白線とお尻の黄色い三角


 雄には他にも特徴があります。水平の白線(黄色矢印)と、お尻にある黄色い三角です。(赤矢印)




水平の白い線は、羽のたたみ方や羽の生え変わりの状態によって見えないこともあります。






「白線がないからこれはコガモじゃない!」と決めつけないことが鳥を見分ける上では大事です。
野鳥を始め、自然を観察するときに大切なのは常に“例外”を念頭にすること。
これによって、図鑑などの記載に合わないものとの出会いを楽しむことができますし、その余裕が鳥の識別力を深めてくれます。お尻の黄色い三角は水面で寝ているときなどでもよく見える特徴ですので、覚えておくと便利です。




公園の池、近くの川へ探しに行こう


コガモは池や河川が主な生息地です。
カルガモのいる環境にやってくることが多いので、まずはカルガモの観察に出かけた場所へ行ってみましょう。
探し方は「カルガモよりも小さく、カイツブリより大きいカモを見つける」という感覚がよいでしょう。画像の中のように見えますので、参考にしてください。


クリックすると正解が出ます



一緒に水面に浮いている姿を見つけるのが簡単です。コガモだけの群れを作っていることもあります。




カルガモより小さいコガモは、人家のそばを流れる細い川にもやってくることがあります。一見いないと思っても、よく探すとコガモがいたりしますので、双眼鏡で探してみましょう。





石の上、岸のそばなどがそのポイントですが、



岸にアシや薮などの身を隠せる場所があると、より好まれるようです。
岸にいるコガモは非常に見つけにくいのですが、これを探す習慣はその後ほかの鳥を見つける力にもつながりますので、この冬に岸辺のコガモ探しを続けておくとよいでしょう。




採餌行動はさまざま


水面の上にいるコガモの群れを見つけたら、その群れが何をしているか、行動をゆっくり観察してみましょう。嘴を水面にちょんちょんとつけていく行動が見られたら、それは浮いているものを食べている行動です。




他に、水辺で草の間などで泥の中に嘴を突っ込んでいたり、浅瀬で嘴を動かしているのも採餌行動です。




恋の決め技は黄色い三角模様の“お尻”!?


群れているコガモで、水面で何やら活発に動いている光景に出会うことがあります。水面で雌を中心に雄たちがその周りでくるくると回ったり、水しぶきが上がったりと、かなり忙しない様子です。




これは雄による雌への求愛行動です。この求愛行動には大きく3つのパターンがあります。
まずは、複数の雄が雌の周りに集まって、雌の進行方向を妨げたり、追いかけたりします(囲い込み行動と呼ばれることがあります)。





次に雌のそばで体を左右に振り、水平の白線を見せるような行動をします。
それで雌の視線が自分に向いているようならば、嘴で水面を少し弾いて小さく水しぶきを上げて顎を引くように伸び上がります。









その後、キュッとお尻を引き上げて黄色い三角模様を誇張します。




一連の求愛行動の最後は“お尻”が決め技なんて笑ってしまいますが、彼らは真剣です。オシドリの求愛行動に比べるとコガモは体が小さいからか、動きも忙しく見えます。
求愛行動は、いつでも行なわれているわけではなく、突如始まり、そしていつのまにか終わってしまいます。求愛行動が始まるかどうかのポイントは、例えば、さりげなく雌の気を惹く行動(例:羽ばたきを何度も繰り返す雄がいる、水面に嘴を付けて水を飲む行動を頻繁に行なう、など)をしている雄を見つけること。
一羽の雄をじっと見るのではなく、群れの行動全体を広く見回していることが大事です。




慣れずに、媚びずに


 カルガモキンクロハジロユリカモメは人が餌をやるとすぐそばまでやってくるのですが、コガモは距離を保つケースが多く、撒かれる餌に積極的には寄りつかないことが多いようです。



人に媚びない生き方をするコガモに惹かれる人も、最近増えてきています。
実際は、コガモは他のカモがひしめく群れの中へ分け入って餌を奪い合うのが苦手なようで、人の給餌が始まっていろいろなカモが集まるようになると減少したり、いなくなってしまう例も確認されています。

一昔前は“水鳥を愛でる”というと、池などに飛来したカモやハクチョウに餌をやることでした。しかし餌をやることで水質悪化を招いたり、一部の種類だけが増加して農作物に被害が出るなど弊害も出てきました。
そこで今は徐々にその考えが変わり、自然環境の改善で鳥を守ろうという動きになりつつあります。具体的に目標を設定するには鳥に関する知識が必要になりますが、コガモを含むいろいろなカモが来ることを目的とした水辺環境づくりがアイデアに加わると良いかもしれないと思っています。






撮影地:
神奈川県(海老名市、座間市)、埼玉県(入間市、川越市、狭山市、飯能市)、新潟県(佐渡市)

お勧め機種
コガモはカモの中では小形ですが見つけやすいので、望遠鏡での観察をお勧めします。川幅が狭い場所ならば双眼鏡でも十分観察できますので、移動距離に合わせて自分に合った重さのものを選ぶとよいでしょう。

<双眼鏡>
オーロスシリーズ
エンデバーEDシリーズ
スピリットEDシリーズ


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